レジェンドと呼ばれて

『レジェンドと呼ばれて』
知らずのうちに48歳になっていたカミカゼ・カサイ、不屈の闘魂ジャンパー葛西紀明(土屋ホーム)だ。
かつてW杯では空中に飛び出して、左右スキーの間から下に顔をのぞかせながら飛ぶ姿があった。それもにこやかな表情を浮かべながら。
欧州スポーツ中継で人気あるユーロスポーツのジャンプ放送において、それはスローモーションでタイトルバックに差し込まれ、もはやヨーロッパ中のジャンプファンの驚きと称賛を得ていた。だから、このように言われた『彼はカミカゼ・カサイ』だと。
「今日は狙っていたんですよ。良い風がきた1本目136mで2位。よしっ優勝できる、いくしかないと」
それなのに無情な2本目の風、ウインドファクターのポイント-4.3点、109.5mで葛西は14位と沈み、トータルで7位に後退してしまった。
「腹が立ってしょうがなくて。今日は何も応えてやらないと、皆さんの前を素通りしようとしたんですよ」
と取材エリアを通り過ぎる真似をして、周囲を笑わせるあたり百戦錬磨の記者対応。
「この青い仕切りの柵を蹴ってばきっと叩き割りたい気分、わかりますかまったく(笑)」
そこにいた新聞記者やテレビスタッフ20余名に、さらに笑いの渦が広がった。
カザーイは賢明なまま暴れるのをやめた。
それでもフィニッシュエリアの端っこでは、ジャンプ台を見上げて「バカヤロー、このー!」と叫び、またもまわりを和ませてくれるのだから、そんな姿に、応援しているファンはやめられない。
「ノルウェーのヤコブセンのサッツが好きなんでね」
そのイメージを胸に抱いて、札幌五輪記念宮の森ノーマルヒルでは3位表彰台。そして、いよいよ狙う頂点だった。葛西のジャンプを観ていればトップチームでも充分に活躍は可能。とくに技術とパワーが必要とされるフライング台ではとの思いがよぎる。
それは来シーズンへの持ち越しだ。
そうなのだ、カサイはいつもジャンプファンの人々に夢と希望を与えてくれる。
そんな、優しさと強さを彼は持っている。
写真・文/岩瀬孝文
photo & text by Yoshifumi Iwase